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AtoMとOmeka Sの違いを徹底比較|どちらを選ぶべき?

アート・デジタルアーカイブや歴史資料アーカイブを立ち上げようとするとき、

必ずといっていいほど候補に挙がるのが AtoM(Access to Memory)Omeka S です。

どちらもオープンソースで、実績もあり、世界中で使われています。

しかし、実際に導入しようとすると、

  • うちの自治体・ギャラリーにはどっちが向いているのか
  • “なんとなく良さそう”で選んで失敗しないか
  • 長期運用のことを考えると、どちらが安全か

といった不安が出てくるはずです。

結論から言えば、

AtoMは「記録・保存」に特化した“裏方のプロ”、

Omeka Sは「公開・活用」に強い“表舞台のプロ”

です。

どちらが優れているかではなく、

「どちらが自分たちの目的に合っているか」を判断することが義務だと考えた方がいいでしょう。

以下、両者の違いを徹底的に分解しつつ、最後には「こういう場合はこっち」と選びやすい形に整理します。


結論:AtoM=記録特化、Omeka S=公開特化

まず特徴を見ていきましょう。

  • AtoM

    → 「資料を国際標準に沿って、階層的に、正確に記録・保存する」ことに特化したシステム

    → 自治体・公文書館・資料館・企業アーカイブなど、「大量資料を長期に守る」現場向き
  • Omeka S

    → 「集めた資料を、見せる・伝える・教育や展示で活用する」ことに特化したシステム

    → 大学・研究プロジェクト・ギャラリー・博物館のオンライン展示など、「発信・公開・学び」の場に向き

なので、

  • 「まずなによりも、資料を体系的に残したい」
  • 「公的機関として、記録の信頼性を担保する義務がある」

という組織はAtoMを選ぶべきですし、

  • 「オンライン展示を作りたい」
  • 「教育コンテンツや特設サイトを柔軟につくりたい」

という組織はOmeka Sを選ぶべきです。

ここを取り違えると、「高機能なのに誰も使いこなせないシステム」にお金と労力を注ぎ込むことになります。

アーカイブは一度作ったら10年単位で付き合っていくものです。

最初の選択を“なんとなく”で済ませないことが、運営者の責務だと考えた方がいいでしょう。


AtoMの特徴(階層型アーカイブに強い)

AtoM(Access to Memory)は、その名の通り「記憶へのアクセス」を目的としたアーカイブソフトです。

背景には、公文書館・アーカイブ機関の要望があり、「記録をきちんと残したい側」の発想で作られています。

fonds → series → item の階層構造

AtoM最大の特徴は、fonds → series → file/item という階層構造を前提としていることです。

たとえば、地域ゆかりの画家のアーカイブを作るとします。

  • fonds:その画家に関する資料一式
  • series:作品/スケッチ/書簡/写真/展覧会記録 などの区分
  • item:個々の作品や個別の手紙、個々の写真、各展示ごとの記録

というように、「大きなまとまり(fonds)」から「細かな単位(item)」へと階層を降りながら整理する設計になっています。

これは、人・組織・活動単位で資料が生まれ、その周りに多数の文書・写真・作品が生まれていくという、現実世界の資料の生まれ方に非常に近いモデルです。

資料を「バラバラの点」としてではなく、「物語を持ったひとまとまりの集合」として扱える。

この階層構造こそが、AtoMの強さです。

国際標準ISAD(G)に対応

もう一つの大きな特徴は、ISAD(G) という国際標準に対応していることです。

ISAD(G)は、世界中の公文書館・アーカイブ機関が「こういう項目で記録しよう」と合意しているルールのようなものです。

AtoMはこの標準に沿って設計されているため、

  • 他機関とのデータ交換
  • 将来のシステム乗り換え
  • 研究者への説明責任

において非常に有利です。

「うちのアーカイブは、世界標準に沿って記録されています」と言えるかどうかは、

特に自治体や公的機関にとって重要です。

“独自ルールでなんとなく管理”では、長期的な継承に耐えないからです。

大量資料・自治体向き

AtoMは、最初から「大量で、複雑で、長期保存が前提の資料」を想定して作られています。

  • 何十年分もの行政文書
  • 地域の作家・団体・企業のアーカイブ
  • 写真・文書・報告書・冊子・ポスターなどが混在する資料群

こうしたものを、整理しきれないまま放置することは、行政としての義務放棄に近い問題を生みます。

AtoMは、その義務をきちんと果たすための「記録のための道具」です。

「とにかく資料量が多い」「後から責任を問われる可能性がある」という現場ほど、AtoMを検討すべきです。


Omeka Sの特徴(柔軟なサイト構築が可能)

対して Omeka S は、最初から「公開・展示・学術発信」を前提に設計されています。

「集めた資料を、どう一般の人に見せるか?」という問いに答えるソフトです。

Dublin Coreベース

Omeka Sのメタデータの基本は Dublin Core です。

これは図書館・大学・博物館といった分野で広く使われている汎用メタデータ標準で、

  • タイトル
  • 作成者
  • 日付
  • 主題
  • 説明
  • 形式
  • 出典

といった、比較的わかりやすい項目で構成されています。

ISAD(G)のような“いかにもアーカイブ専門用語”に比べると、

現場の職員や学芸員が直感的に使いやすい というメリットがあります。

また、Dublin Coreをベースにしつつ、必要に応じて項目を拡張していけるため、

  • アート
  • 歴史
  • 民俗
  • 科学資料

    など、多様な分野を1つのシステム上で扱いやすいのも特徴です。

複数サイトを構築

Omeka Sの最大の武器は、

1つのデータベースから複数の公開サイトを作れるという点です。

例えば、

  • 「地域文化アーカイブ」本体サイト
  • 「戦後写真アーカイブ」特設サイト
  • 「小学校向け学習教材サイト」
  • 「ギャラリーのオンライン展覧会サイト」

など、同じ資料群から、目的別の“見せ方の違うサイト”をいくつも作れるのです。

これは、

  • 研究者向け
  • 市民向け
  • 子ども向け
  • 観光客向け

といった、ターゲット別の発信が求められる自治体や文化機関にとって、非常に大きな強みになります。

学術・展示向き

Omeka Sは、単に「データが見える」だけでなく、

  • ストーリーページ
  • 展示解説ページ
  • インタラクティブなコンテンツ
  • マップやタイムラインとの連動

といった“見せ方”を作り込めるのが魅力です。

言い換えれば、

「資料をどう編集し、物語として届けるか」を支援してくれるツール

と考えるとわかりやすいでしょう。

研究プロジェクトや学術展覧会、地域のストーリーテリング型サイトなどには、Omeka Sの方が明らかに向いています。


機能比較(項目別:検索・画像・メタデータ・公開)

ここからは、もう少し冷静に機能を項目別に見ていきます。

■検索機能

  • AtoM
    • 階層構造に基づいた検索が可能
    • fonds/series単位での絞り込み
    • 権限レコード(人物・団体)からの逆引き検索

      → 大量資料の中から、“構造を辿りながら探す”のに向いています。
  • Omeka S
    • タグ・コレクション・リソースタイプなどで柔軟に検索
    • サイトごとに検索条件を変えられる

      → 一般ユーザーが“キーワードで探す”“関連項目を辿る”体験に向いています。

■ 画像・メディアの扱い

  • AtoM
    • 大量の画像ファイルをアーカイブとして保持することを想定
    • サムネイル表示や簡易閲覧は可能だが、“見せ方”の自由度は高くない
  • Omeka S
    • 画像・動画・音声を前提にしたUI
    • 展示用に大きく見せるレイアウトやスライドショーなどが得意

      → 「鑑賞してもらう」ことを前提にした設計です。

■ メタデータ

  • AtoM:ISAD(G)・EADなどアーカイブ向け国際標準
  • Omeka S:Dublin Coreベース+拡張スキーマ

どちらも“正しい”のですが、求められる専門性が違うと考えた方が良いです。

■ 公開機能

  • AtoM
    • 最低限の公開機能はあるが、“見せるためのサイト”というより“目録を公開しているサイト”という印象
    • デザインの自由度は高くない
  • Omeka S
    • サイト構築ツールとしての側面が強い
    • テーマ変更・レイアウト調整・プラグインによる拡張がしやすい

      → 公開・展示・発信に軸足を置くなら、明らかにOmeka Sが有利です。

H2-5|運用コスト・必要サーバー比較

システムは「入れて終わり」ではなく、「運用し続けるコスト」を考えないといけません。

ここを軽視すると、数年後に“誰も触れないシステム”だけが残ります。

■ AtoMのコスト感

  • サーバー構成が比較的重め(Elasticsearch等)
  • 導入時は専門業者に依頼するケースが多い
  • 大規模運用に耐えるが、初期構築とメンテナンスに一定の技術力が必要

向いているのは、

  • 自治体・公文書館
  • 県・市レベルの資料館
  • 中規模以上の美術館・企業アーカイブ

つまり、「組織としてIT予算を確保できるところ」です。

逆に、少人数運営のギャラリーが独力でAtoMを抱えるのはかなり負担が大きいと言えます。

■ Omeka Sのコスト感

  • 比較的軽量なLAMP環境で動く
  • WordPressなどCMS運用の経験があれば、感覚的に近い
  • 採用事例が多く、情報が見つけやすい

大学の研究室・NPO・小規模ギャラリーなど、

限られた予算の中で「発信の拠点」を作りたい組織にはOmeka Sの方が現実的です。


どちらを選ぶべきか?用途別フローチャート

ここまで読んでも「うちの場合はどっちなんだ」と迷う場合のために、

かなりざっくりしたフローチャートで考えてみます。


Q1. いちばん大事なのは「資料を正確に残すこと」ですか?

→ YES:AtoM を第一候補に

→ NO:次へ

Q2. オンライン展示や学習用の“見せるサイト”を作りたいですか?

→ YES:Omeka S が有力

→ NO:次へ

Q3. 扱う資料は、

「公文書」「大量の歴史資料」「企業アーカイブ」など長期保存が義務に近いものですか?

→ YES:AtoM を優先

→ NO:次へ

Q4. デザインやUIにある程度こだわりたいですか?

(写真を大きく見せたい・特集ページを自由に組みたいなど)

→ YES:Omeka S

→ NO:AtoM寄りでもよい


さらに乱暴にまとめると、

  • 自治体・公文書館・本格派資料館

    AtoM前提で検討しつつ、公開専用にOmeka Sを併用する案も視野に入れる
  • ギャラリー・大学研究室・地域プロジェクト・芸術祭

    → まずは Omeka S で「公開・展示」を整え、必要に応じて裏側でAtoM等を検討

という整理になります。


まとめ:用途が決まっていれば迷わない

AtoMとOmeka Sを比較するとき、

“どちらが高機能か”“どちらが有名か”で決めてしまうのは危険です。

大事なのは、

「自分たちは何のためにアーカイブを作るのか?」

を先に決めることです。

  • 記録・保存・責任 を最優先するなら → AtoM
  • 公開・展示・発信 を最優先するなら → Omeka S

そして、本格的なアーカイブであればあるほど、

「裏方(記録)」と「表(公開)」を分けて考えるべきです。

  • 裏側をAtoMでガッチリ固める
  • 表側をOmeka Sで柔らかく見せる

という“二刀流”も、今後ますます現実的な選択肢になっていくでしょう。

アーカイブは、一度作ったら“文化インフラ”として長く残ります。

だからこそ、

用途に合わないシステムを選んでしまうこと自体が、将来の担当者への負債になります。

「AtoM=記録特化」「Omeka S=公開特化」という軸さえ押さえておけば、

本来、選択にそれほど迷う必要はありません。

  • 公的責任の強いアーカイブなのか
  • 展示・発信に重心を置いたアーカイブなのか

そこを見極めることが、

今アーカイブ構築を任されている人の“最初の義務”だと言えるのではないでしょうか。


デジタルアーカイブ化を「導入すべきかどうか」から検討している方はこちら
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この記事を書いた人
ArtLibの長岡です。 アートイベントの取り仕切りを10年にわたって続けてきました。 現在は百貨店のアートギャラリースペースにて、作家さんの展示会場の運営を行っています。 絵画を年間2000万円の絵画を販売して、学んだことを公開していきます。