WordPressでアート・デジタルアーカイブは作れるのか?可能性と限界
Omeka Sはどんな人に向いている?特徴と運用のコツ
アート・デジタルアーカイブや歴史資料アーカイブを立ち上げようとするとき、
必ずといっていいほど候補に挙がるのが AtoM(Access to Memory) と Omeka S です。
どちらもオープンソースで、実績もあり、世界中で使われています。
しかし、実際に導入しようとすると、
といった不安が出てくるはずです。
結論から言えば、
AtoMは「記録・保存」に特化した“裏方のプロ”、
Omeka Sは「公開・活用」に強い“表舞台のプロ”
です。
どちらが優れているかではなく、
「どちらが自分たちの目的に合っているか」を判断することが義務だと考えた方がいいでしょう。
以下、両者の違いを徹底的に分解しつつ、最後には「こういう場合はこっち」と選びやすい形に整理します。
まず特徴を見ていきましょう。
なので、
という組織はAtoMを選ぶべきですし、
という組織はOmeka Sを選ぶべきです。
ここを取り違えると、「高機能なのに誰も使いこなせないシステム」にお金と労力を注ぎ込むことになります。
アーカイブは一度作ったら10年単位で付き合っていくものです。
最初の選択を“なんとなく”で済ませないことが、運営者の責務だと考えた方がいいでしょう。
AtoM(Access to Memory)は、その名の通り「記憶へのアクセス」を目的としたアーカイブソフトです。
背景には、公文書館・アーカイブ機関の要望があり、「記録をきちんと残したい側」の発想で作られています。
AtoM最大の特徴は、fonds → series → file/item という階層構造を前提としていることです。
たとえば、地域ゆかりの画家のアーカイブを作るとします。
というように、「大きなまとまり(fonds)」から「細かな単位(item)」へと階層を降りながら整理する設計になっています。
これは、人・組織・活動単位で資料が生まれ、その周りに多数の文書・写真・作品が生まれていくという、現実世界の資料の生まれ方に非常に近いモデルです。
資料を「バラバラの点」としてではなく、「物語を持ったひとまとまりの集合」として扱える。
この階層構造こそが、AtoMの強さです。
もう一つの大きな特徴は、ISAD(G) という国際標準に対応していることです。
ISAD(G)は、世界中の公文書館・アーカイブ機関が「こういう項目で記録しよう」と合意しているルールのようなものです。
AtoMはこの標準に沿って設計されているため、
において非常に有利です。
「うちのアーカイブは、世界標準に沿って記録されています」と言えるかどうかは、
特に自治体や公的機関にとって重要です。
“独自ルールでなんとなく管理”では、長期的な継承に耐えないからです。
AtoMは、最初から「大量で、複雑で、長期保存が前提の資料」を想定して作られています。
こうしたものを、整理しきれないまま放置することは、行政としての義務放棄に近い問題を生みます。
AtoMは、その義務をきちんと果たすための「記録のための道具」です。
「とにかく資料量が多い」「後から責任を問われる可能性がある」という現場ほど、AtoMを検討すべきです。
対して Omeka S は、最初から「公開・展示・学術発信」を前提に設計されています。
「集めた資料を、どう一般の人に見せるか?」という問いに答えるソフトです。
Omeka Sのメタデータの基本は Dublin Core です。
これは図書館・大学・博物館といった分野で広く使われている汎用メタデータ標準で、
といった、比較的わかりやすい項目で構成されています。
ISAD(G)のような“いかにもアーカイブ専門用語”に比べると、
現場の職員や学芸員が直感的に使いやすい というメリットがあります。
また、Dublin Coreをベースにしつつ、必要に応じて項目を拡張していけるため、
Omeka Sの最大の武器は、
1つのデータベースから複数の公開サイトを作れるという点です。
例えば、
など、同じ資料群から、目的別の“見せ方の違うサイト”をいくつも作れるのです。
これは、
といった、ターゲット別の発信が求められる自治体や文化機関にとって、非常に大きな強みになります。
Omeka Sは、単に「データが見える」だけでなく、
といった“見せ方”を作り込めるのが魅力です。
言い換えれば、
「資料をどう編集し、物語として届けるか」を支援してくれるツール
と考えるとわかりやすいでしょう。
研究プロジェクトや学術展覧会、地域のストーリーテリング型サイトなどには、Omeka Sの方が明らかに向いています。
ここからは、もう少し冷静に機能を項目別に見ていきます。
どちらも“正しい”のですが、求められる専門性が違うと考えた方が良いです。
システムは「入れて終わり」ではなく、「運用し続けるコスト」を考えないといけません。
ここを軽視すると、数年後に“誰も触れないシステム”だけが残ります。
向いているのは、
つまり、「組織としてIT予算を確保できるところ」です。
逆に、少人数運営のギャラリーが独力でAtoMを抱えるのはかなり負担が大きいと言えます。
大学の研究室・NPO・小規模ギャラリーなど、
限られた予算の中で「発信の拠点」を作りたい組織にはOmeka Sの方が現実的です。
ここまで読んでも「うちの場合はどっちなんだ」と迷う場合のために、
かなりざっくりしたフローチャートで考えてみます。
Q1. いちばん大事なのは「資料を正確に残すこと」ですか?
→ YES:AtoM を第一候補に
→ NO:次へ
Q2. オンライン展示や学習用の“見せるサイト”を作りたいですか?
→ YES:Omeka S が有力
→ NO:次へ
Q3. 扱う資料は、
「公文書」「大量の歴史資料」「企業アーカイブ」など長期保存が義務に近いものですか?
→ YES:AtoM を優先
→ NO:次へ
Q4. デザインやUIにある程度こだわりたいですか?
(写真を大きく見せたい・特集ページを自由に組みたいなど)
→ YES:Omeka S
→ NO:AtoM寄りでもよい
さらに乱暴にまとめると、
という整理になります。
AtoMとOmeka Sを比較するとき、
“どちらが高機能か”“どちらが有名か”で決めてしまうのは危険です。
大事なのは、
「自分たちは何のためにアーカイブを作るのか?」
を先に決めることです。
そして、本格的なアーカイブであればあるほど、
「裏方(記録)」と「表(公開)」を分けて考えるべきです。
という“二刀流”も、今後ますます現実的な選択肢になっていくでしょう。
アーカイブは、一度作ったら“文化インフラ”として長く残ります。
だからこそ、
用途に合わないシステムを選んでしまうこと自体が、将来の担当者への負債になります。
「AtoM=記録特化」「Omeka S=公開特化」という軸さえ押さえておけば、
本来、選択にそれほど迷う必要はありません。
そこを見極めることが、
今アーカイブ構築を任されている人の“最初の義務”だと言えるのではないでしょうか。
▶ デジタルアーカイブ化を「導入すべきかどうか」から検討している方はこちら
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