個人作家のための“作品ファイル名ルール”作成術
販売済み作品をアーカイブに残すときの注意点
制作メモは、多くの作家にとって「あったほうがいい気はするが、なくても困らないもの」と捉えられがちです。しかし、アーカイブの視点で見ると、制作メモは作品情報と同じくらい重要な要素になります。なぜなら、作品そのものは完成後も残りますが、制作中の思考や判断、迷い、試行錯誤は、記録しなければ確実に消えてしまうからです。
本記事では、制作メモを“思いつきのメモ”で終わらせず、アーカイブと結びついた情報資産に変える方法を、具体的な手順と実例を交えて解説します。
まずは、なぜ制作メモを残す必要があるのか、その理由を整理します。
制作中に考えていたことは、完成後に思い出そうとしても正確には再現できません。なぜその構図を選んだのか、なぜその色を使ったのかといった判断は、その瞬間の感覚と文脈に依存しています。制作メモは、その「一回性の思考」を保存する唯一の手段です。
展示解説文やポートフォリオの文章を書く際、多くの作家が言葉に詰まります。その原因の多くは、制作当時の考えが手元に残っていないことです。制作メモがあれば、事実に基づいた説明が可能になり、後付けの言葉にならずに済みます。
制作メモを継続的に残すことで、自分でも気づいていなかったテーマの変遷や価値観の変化が見えてきます。これは、作家活動を振り返り、次の方向性を考えるための重要な材料になります。
制作メモは、形式を一つに統一する必要はありません。重要なのは「記録しやすさ」です。
紙のノートは、構想段階や迷いが多い時期に向いています。図やスケッチと文章を自由に組み合わせられるため、思考を深く掘り下げるのに適しています。ただし、後から検索できない点を踏まえ、デジタル化を前提に使う必要があります。
制作中や移動中に浮かんだ考えは、スマホメモが最適です。文章の完成度を気にせず、断片的に残すことが継続のコツです。「とりあえず残す」ことを最優先にします。
制作中に手が汚れている場合や、感情が強く動いた瞬間は音声メモが有効です。話し言葉のまま残すことで、当時の温度感が保存されます。
制作メモは、アーカイブと結びついて初めて価値を持ちます。
制作メモには、必ず作品タイトル(仮称可)や作品番号を記載します。これがないと、後からどの作品のメモか分からなくなります。
日付は、制作過程を時系列で追うための重要な手がかりです。迷いや判断の変化を後から理解するためにも、日付は省略しないようにします。
制作メモは日記ではありません。「違和感」「試したこと」「判断理由」を短文で残すだけで十分です。続けられる形式を優先します。
文章だけでなく、視覚的な記録も制作メモの一部です。
多くの作家が完成作品しか撮影しませんが、途中段階こそ重要な記録です。下地や構図決定時の状態は、制作理解を深める貴重な資料になります。
「工程が変わったら1枚撮る」など、簡単なルールを決めると継続しやすくなります。完璧な写真である必要はありません。
途中経過写真には、連番や工程名をファイル名に含めます。これにより、後から見返したときに制作の流れが一目で分かります。
ここでは、実際の運用イメージを紹介します。
作家Aは、制作中の思考をスマホメモと音声メモで断片的に記録していました。文章は短く、仮タイトルと日付だけは必ず入れていました。
完成後、すべてのメモを整理し、使えそうな部分だけをテキスト化しました。すべてを清書せず、必要な部分だけを残しています。
整理した制作メモは、アーカイブの「制作ノート」項目に登録され、作品情報と紐付けられました。
制作メモをデジタル化する際には、いくつか注意点があります。
紙のノートは、スキャン後も保管します。書き込み自体が資料価値を持つ場合があるためです。
日付→本文→補足、など簡単な形式を決めるだけで十分です。厳密さは不要です。
すべてを整えようとすると止まります。「使える状態」で保存することを優先します。
最後に、制作メモの価値を整理します。
制作メモは副産物ではなく、作品を支える重要な情報資産です。
短く、未整理でも構いません。積み重ねることで大きな価値になります。
制作メモは、未来の自分、そして作品を見る誰かの理解を助ける「裏側の物語」です。アーカイブ化することで、その価値は初めて活きます。
必要であれば、