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展示会記録の標準化マニュアル|写真・出品リストの整え方

ギャラリーにおいて“展示会記録”は、単なる記録作業ではありません。

それは、ギャラリー経営の基盤であり、信用・営業力・企画力・顧客対応力のすべてを支える土台です。

実は、多くのギャラリーが「記録の重要性」を理解しているにもかかわらず、

  • 展示ごとに記録形式が異なる
  • 写真の撮り方にばらつきがある
  • 出品リストの仕様が統一されていない
  • 過去の展示資料がバラバラに散らばっている

    という“非標準化”の問題を抱えています。

この状態では、ギャラリー内の情報は属人化し、

スタッフが変われば記録形式も変わり、

長期的なブランド形成や業務効率が著しく損なわれてしまいます。

結論から言えば、

ギャラリーは展示会記録を“標準化”しなければ、未来に資産を残せません。

記録の質はギャラリーの姿勢そのものであり、義務として整えるべき要素です。

このマニュアルでは、展示記録に必要な項目・写真撮影の手順・出品リストの統一方法・デジタルアーカイブの運用まで、ギャラリー向けに徹底的に体系化して解説します。


展示会記録が重要な3つの理由

まず最初に、なぜ展示会記録を“標準化”すべきなのか、その理由を丁寧に明確化します。

記録とは「誰のために、何のために」行うものなのか。

この前提理解がないと記録は義務ではなく“作業”になってしまい、継続できません。


① ギャラリーの「信用・ブランド」を成り立たせるため

ギャラリーの信用は、扱った作品の質だけでは成り立ちません。

最も強い信用は、**「過去の展示がどれだけ丁寧に、正確に記録されているか」**です。

たとえば以下のような場面で記録は決定的な意味を持ちます。

  • 新しい作家を扱うとき
  • 企業とコラボ企画を提案するとき
  • 自治体と展覧会をつくるとき
  • メディアに紹介されるとき
  • 外部キュレーターに展示実績を示すとき

「過去の展示記録を見せてください」と言われた瞬間、

ギャラリーの本当の力量が問われます。

記録が整っているギャラリーほど、

  • 情報の信頼性
  • 企画の再現性
  • 作品管理能力

    が明確に評価され、ブランド価値が上がります。

② 展示企画のクオリティと“再現性”を担保するため

展示記録は、未来の企画書・展示計画のデータベースになります。

  • 過去にどの作品をどの壁面に展示したか
  • 作品同士の関係性がどう見えたか
  • 展示導線はどう設定したか
  • ライトはどう配置したか

これらの情報が一切残っていない場合、

「もう一度同じ企画を実施する」

という仕事が不可能になります。

逆に記録が整っていれば、

  • 回顧展
  • 再展示
  • 巡回展

    がきわめて容易になります。

展示の“再現性”は、記録レベルの高さに完全に依存します。


③ 顧客対応・販売対応を円滑にするため

展示が終わった後、次のような問い合わせは日常的に発生します。

  • 「あの赤い作品のサイズは?」
  • 「展示していた◯◯は売れましたか?」
  • 「キャプションの解説を教えてください」
  • 「どの壁にどれがあった?」
  • 「展示写真を送ってください」

これらに即座に答えられるギャラリーは、顧客から強い信頼を得ます。

逆に、

「探します」「後日ご連絡します」

が続けば、ギャラリーの情報管理力が疑われます。

展示記録の質は、そのまま顧客対応の質につながります。


標準化すべき記録項目一覧(完全版)

ギャラリーが最低限、統一すべき記録項目を“抜け漏れなし”で網羅しました。

これらはギャラリーの「公式記録」であり、標準化されていないと後々破綻します。


■ 展示名

  • 正式なタイトル
  • サブタイトル
  • 英語タイトル(ある場合)

展示名はギャラリーの文脈を形成する最重要情報です。


■ 会期

  • 開催期間
  • 開廊時間
  • 休廊日
  • レセプション・トークイベント日時
  • 担当スタッフ名
  • 制作協力者(照明・デザイン会社など)

“どんな条件で開催された展示か”の全体像が明確になります。


■ 展示作品一覧(拡張項目)

作品単位の情報は、後から最も参照されます。

必須項目:

  • 作品番号
  • 作家名
  • 作品名
  • サイズ(額装有無)
  • 技法
  • 制作年
  • 価格
  • 所在(販売済/預かり/作家蔵)
  • 展示位置(壁面番号・高さ)

任意項目:

  • シリーズ名
  • 作品解説
  • 販売状況(商談中・仮予約など)
  • 梱包サイズ
  • 返却先

■ レイアウト(空間記録)

レイアウトは展示再現に欠かせないデータです。

  • ギャラリー平面図
  • 壁面ごとの展示順
  • ライトの角度・照度(必要なら)
  • キャプション配置
  • 導線の方向性
  • 写真撮影の位置関係

レイアウトの記録があると、企画書の説得力が段違いに高まります。


■ 作家情報(アップデート版)

展示ごとに「当時の作家情報」を残す意味は非常に大きいです。

  • プロフィール
  • CV(展示歴)
  • ステートメント
  • 使用技法
  • 展示テーマ
  • 展示に合わせたコメント

作家の変遷を追うためにも、展示ごとの更新は必須です。


写真撮影の標準手順(ギャラリー版・詳細)

ギャラリーの展示写真は「資料であり商品」です。

撮影方法の標準化は、アーカイブの本質そのものと言えます。

以下では各撮影ステップを“現場レベル”まで細かく規定します。


■撮影の原則(ギャラリー全体で守るべきルール)

  1. 展示初日の開廊前に撮る

     – 来場者の影響を受けず、展示が最も整っているタイミング。
  2. スマホ+カメラの両方で撮影(可能なら)

     – スマホは速報性・共有用

     – カメラは資料用
  3. 角度・歪み・影の統一

     – スタッフによる差が出ないよう基準を作る。
  4. 撮影場所・順番を固定する

     – 入口→全景→壁面→作品個別 → キャプションの順が最良。

■全景(会場の全体像)

ギャラリーの「環境」を示す資料です。

撮影ポイント:

  • 入口からのメインショット
  • 空間の縦横比が分かる構図
  • 来場者導線が推測できる角度
  • 3カット以上撮影(左右・正面)

全景写真が充実しているギャラリーは、企画書の説得力が非常に高いです。


■ 壁面

壁面ごとに“正対した写真”を撮ります。

基準:

  • 壁面中央に立つ
  • スマホなら1.5〜2倍ズームで歪みを軽減
  • 画角は水平
  • 複数カット(正対・少し右・少し左)

壁面写真は、展示全体の構造を最もよく伝えます。


■ 個別作品

作品単体の記録は、作家からの信頼に直結します。

撮影すべきもの:

  • 作品の正面(歪みなし)
  • 額装の状態
  • 台座・展示台の状態
  • 立体作品は複数角度
  • キャプション(必ず)

キャプションの写真があるだけで、後の情報入力が圧倒的に楽になります。


出品リストの作り方(テンプレート付き・詳細解説)

出品リストは、ギャラリーが扱った作品の“公式記録”であり、展示記録の心臓部です。

以下に完全版テンプレートと作成方法を提示します。


■ 推奨テンプレ(エクセル・Googleスプレッドシート)

No作家名作品名制作年サイズ技法額装価格所在展示位置壁面番号キャプション有無備考

■ 作成のポイント(実務に基づいた詳細)

  • No(作品番号)はレイアウトと一致させる

    → 写真・図面・出品リストが同じ番号で紐づく。
  • 作品名の正式名称を統一

    → SNS用・DM用などの表記揺れを防ぐ。
  • 価格は税込/税別を明記

    → 顧客対応での誤解を防止。
  • 所在は必ず記録(販売済・預かり・倉庫)

    → 紛失防止・返却忘れ防止に必須。
  • 展示位置は“壁面番号+高さ”で記録

    → 再展示が容易になる。
  • 備考には販売状況・梱包状態を記載

    → 商談管理に役立つ。

作品番号の付け方(展示のルール化・詳細)

作品番号は、展示記録の最重要ルールです。

番号体系が統一されていないギャラリーは、必ず資料整理が破綻します。


■ 推奨番号体系(再現性の高い形式)

展示ID-壁面番号-作品順

例:2024S-02-03


■ 実務でのポイント

  • 壁面番号は“ギャラリー内で固定”しておく
  • 左→右、上→下の順番で付与
  • 額装の有無で番号を変えない
  • 入れ替えがあった場合は補助番号(例:3a)を付ける
  • 番号はキャプションにも記載すると管理精度が上がる

番号が揃うと、

「写真・リスト・展示図・販売記録」が完全にリンクする

という強みが生まれます。


展示記録のデジタル管理方法(実務に基づく深度)

ギャラリーの展示記録は、数年で膨大な量になります。

そのため、

「どのプラットフォームで、どの粒度で管理するか」

が極めて重要です。

ここでは、ギャラリーの規模に応じたベストプラクティスを紹介します。


■ AtoM(Access to Memory)

大規模・長期運用向け。

自治体・美術館レベルのアーカイブにも耐える性能。

特徴:

  • 階層構造(fonds → series → item)
  • ISAD(G)準拠
  • 大量データの一括管理
  • 長期保存に強い
  • バックエンド管理に優れる

ギャラリー利用例:

  • 長年の展示記録を体系的に整理
  • 作家ごとの“文化資産としてのアーカイブ”を作成
  • 年度ごとの展示シリーズ管理

■ Omeka S

Web公開に特化したアーカイブシステム。

特徴:

  • 複数サイトを構築可能
  • 写真・テキスト・動画を柔軟に組み合わせられる
  • 展示ページを公開可能
  • 見せるアーカイブに向いている
  • デザイン調整が容易

ギャラリー利用例:

  • 展示アーカイブ公開サイト
  • 作家ページのオンラインギャラリー
  • 展示記録のWeb図録化

■ Google Drive

最も現実的で、90%の小規模ギャラリーで運用可能。

利点:

  • 無料で使える
  • 写真・リスト・資料を一元管理
  • スタッフ間共有が容易
  • スプレッドシートと相性が良い

ギャラリー利用例:

  • 展示別フォルダ
  • 壁面図PDF
  • 出品リスト
  • メディア資料
  • 展覧会写真の原本保管

中小規模ギャラリーは、

Google Drive+スプレッドシート

で始め、後から Omeka S に移行するケースが非常に多いです。


|まとめ:記録の質が“ギャラリーの質”を決める

展示会記録は、ギャラリーにおける単なる事務作業ではありません。

それは、ギャラリーが社会と作品をつなぐために負うべき義務です。

  • 正確な記録
  • 統一された形式
  • 再現性
  • 検索性
  • 長期保存性

これらが揃ってはじめて、ギャラリーは“文化を扱う機関”になります。

展示を開催するだけでは、作品は残りません。

展示を記録してはじめて、文化は残ります。

その記録の質こそ、ギャラリーの姿勢そのものです。

丁寧で標準化された記録を続けるギャラリーは、

作家から信頼され、顧客に尊重され、企画者から頼られる存在になります。

記録は、ギャラリーの未来そのものです。


デジタルアーカイブ化を「導入すべきかどうか」から検討したい方はこちら
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この記事を書いた人
ArtLibの長岡です。 アートイベントの取り仕切りを10年にわたって続けてきました。 現在は百貨店のアートギャラリースペースにて、作家さんの展示会場の運営を行っています。 絵画を年間2000万円の絵画を販売して、学んだことを公開していきます。