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小規模資料館がデジタルアーカイブ化で失敗しやすい理由

小規模資料館がデジタルアーカイブに取り組むとき、

「途中で止まってしまう」「データが増えない」「結局紙のまま運用している」

といった事例を、全国どこに行っても耳にします。

本来、地域資料のデジタル化は

“未来への義務” であり、

“残しておかなければ二度と戻らない文化資源” を守るための取り組みです。

しかし現実には、自治体の予算・人員・設備は限られています。

そのため「正しい仕組み」と「無理のない運用体制」を設計しない限り、

デジタルアーカイブは簡単に破綻してしまいます。

ここでは、小規模資料館がデジタル化で失敗しやすい理由と、

失敗を避けるための最初の設計、長期運用の考え方までを包括的に解説します。


なぜ小規模資料館のデジタル化は失敗しやすいのか?

理由は明確で、

「アナログ作業の膨大さ」 × 「人員の少なさ」 × 「システムの複雑さ」

という三重苦が同時に発生するからです。

自治体の大規模館とは違い、小規模資料館は次の状況になりやすい傾向があります。

  • 学芸員が1〜2名、または非常勤のみ
  • 事務・展示・保全・イベントを兼務
  • ICT担当者が不在
  • 整理されていない資料が大量に眠っている
  • 施設としての情報基盤が整っていない

この状態で「デジタル化を一気にやりましょう」と言われても、

現場は対応できるはずがありません。

デジタルアーカイブは“データ入力の山”になるため、

構造設計が甘いと必ず破綻します。


理由①:資料の整理が追いつかない

小規模資料館の大半は「紙資料」「写真アルバム」「寄贈資料」「古文書」「地域団体の記録」など、

膨大な資料を抱えています。

しかし、最初に “整理前の状態でデジタル化を始める” と、次の問題が必ず起きます。

  • 類似資料が大量に発生
  • 命名規則が統一されない
  • 後から分類しなおす手間が膨大になる
  • 一度デジタル化したものを削除できなくなる

本来、アーカイブとは

「資料の書誌情報」→「分類」→「メタデータ付与」→「デジタル化」

という順序で進めるべきものです。

しかし小規模館では、

「とりあえずスキャンから始める」

という最も危険なパターンに陥りがちです。

これが失敗の根本原因になります。


理由②:担当者の負担が大きすぎる

小規模資料館では、学芸員が次の業務を兼任することが一般的です。

  • 展示づくり
  • 受付・事務
  • 学芸資料の調査
  • 地域団体との調整
  • 収蔵庫の管理
  • 文化財保護計画
  • 年間イベントの企画
  • 住民対応

この上に「デジタルアーカイブの入力業務」が乗ると、

1人の負担は確実に限界を超えます。

たとえば、現場でよく聞く声としては…

  • 「システムを触る時間がない」
  • 「入力を始めても電話対応で止まる」
  • 「完成したはずが更新できない」
  • 「人が変わるたびデータが途切れる」

などがあります。

アーカイブは“継続が命”。

担当者一人に依存した設計は確実に破綻します。


理由③:システムが使いこなせない

小規模資料館が陥りやすい落とし穴の一つが

“高機能システムを入れればうまくいくという誤解”

です。

しかし現場では、次の事態が頻発します。

  • 国際標準ISAD(G)やDublin Coreの理解が追いつかない
  • AtoM・Omeka Sを入れたのに使われない
  • メタデータ項目が多すぎて入力が進まない
  • そもそもICT担当者が館に存在しない

システムはあくまで“器”であり、

その前に「分類」「メタデータ」「運用ルール」がなければ機能しません。

つまり、

「器が立派でも、整理されない資料の山に乗せれば破綻する」

ということです。


理由④:権利関係の処理が曖昧

資料館が扱う資料は、

  • 著作権
  • 肖像権
  • 寄贈者の意図
  • 地域団体の所有権

    など、多方向の権利に絡んでいます。

しかし現場では、

「寄贈されたから自由に公開していい」

と誤解されるケースが多くあります。

実際は、

寄贈=公開許可 ではありません。

次のような曖昧なケースが残っており、これがデジタル化を止める原因になります。

  • 亡くなった方の写真
  • 地域団体が作成した資料
  • 撮影者が不明な古い写真
  • 寄贈者の家族内で意見が割れる

権利問題が発生すると、

“公開できないデータだけが増えてしまう”

という最悪の状況が起こります。


計画より“データ入力”に時間がかかる

小規模資料館のデジタル化計画では、

「1年間で◯◯点入力」

という計画が立てられがちです。

しかし現実は、

入力作業が想定の3〜10倍の時間がかかります。

理由は明確です。

  • メタデータ入力は“思考のいる作業”だから
  • 資料の年代や背景を調べる必要があるから
  • 同定作業に時間がかかるから
  • 資料の破損や欠落が発覚するから
  • 途中で担当業務が割り込むから

結果、未入力データが山のように積みあがり、

「今年もまた残ったまま…」

という状態になります。


失敗を防ぐための“3つの最初の設定”

小規模資料館のデジタル化を成功させるには、

最初の段階で次の3つを明確にすることが重要です。


アーカイブの“目的”を決める

目的が曖昧だと、入力項目が増え、作業が破綻します。

例:

  • 地域史の研究基盤をつくる
  • 住民が検索しやすい資料館にする
  • 年代別・テーマ別に分類し将来の展示の基礎にする

目的ごとに必要なメタデータは異なります。

目的が絞られれば、最初から無駄な入力項目を削れます。


“やらないこと”を明確にする

アーカイブは“やること”を決めるより、

“やらないこと”を決める方が成功します。

例:

  • 初年度は古文書を扱わない
  • 写真資料だけに限定する
  • 1点ずつの長文解説を作らない

対象範囲を絞ることで、

「入力の遅れ」が発生しなくなります。


最小限のメタデータ項目を作る

最初からDublin Core全面対応をする必要はありません。

まずは 6〜10項目 に絞るべきです。

例:

  • 資料名
  • 年代
  • 所有団体
  • 写真
  • 分類
  • 簡易説明

これだけでも十分にアーカイブとして機能します。


長期運用を成功させる組織体制の作り方

デジタルアーカイブは “システムではなく運用が本体” です。

そのため、次の組織体制を整えることが不可欠です。


① “データ管理担当者”を明確にする

  • 学芸員1名
  • 事務職1名
  • 外部協力者(非常勤)

など、最低限の体制を作る必要があります。


② “更新日” を決める

例:

  • 毎週火曜日はアーカイブの日
  • 月末にまとめて5点入力
  • 展示が終わった翌週に整理

ルール化しない限り、更新は止まります。


③ 年度ごとに“棚卸し”を行う

  • 入力点数
  • 未処理資料
  • 新規寄贈
  • 権利問題の確認

これらを年度末にチェックすることで、

システムが陳腐化せず、更新し続けられます。


まとめ:まず“やらないこと”を決めるのが成功の鍵

小規模資料館のデジタルアーカイブが失敗する理由は、

実は技術ではありません。

“背負い込みすぎる設計”が、運用を破綻させる最大の原因です。

成功する資料館は例外なく、

次の順序で進めています。

  1. 整理する範囲を限定する
  2. 最小限の項目だけで始める
  3. 運用体制を小さく確保する
  4. 年度ごとに棚卸しする
  5. 少しずつ作業を積み上げる

デジタルアーカイブは、

“最初から完璧を目指すものではなく、積み重ねて完成していくもの”

です。

だからこそ、まずは

「やらないことを決める」

ことが、最も賢い第一歩になります。

この記事を書いた人
ArtLibの長岡です。 アートイベントの取り仕切りを10年にわたって続けてきました。 現在は百貨店のアートギャラリースペースにて、作家さんの展示会場の運営を行っています。 絵画を年間2000万円の絵画を販売して、学んだことを公開していきます。