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 AtoM・Omekaを使った文化資料デジタル化の成功パターン

文化資料のデジタルアーカイブは、

「やればいつか成果が出る」単純な事業ではありません。

むしろ、現場では次のような課題が同時進行で発生します。

  • 資料の散逸・所在不明問題
  • 担当者の異動による知識断絶
  • デジタル化予算の削減
  • 権利処理の曖昧さ
  • データ入力の膨大な作業量

その中で AtoM(Archivematica + Access to Memory)

Omeka S は、日本の自治体・資料館で導入が急増している二大システムです。

本稿では、AtoM/Omekaが選ばれる理由から、

実際の成功モデル、導入を成功させる方法まで

現場が困らないレベルの実務視点 で解説します。


AtoM・Omekaが自治体で選ばれる理由

自治体・資料館は、民間と異なり「長期保全」を最優先に求められます。

5年、10年ではなく、“50年後も読み出せる” というレベルが必要です。

その条件を満たすオープンソースアーカイブが、

AtoM と Omeka S の2つです。


■ AtoMが選ばれる理由

  • 国際標準(ISAD(G))に準拠している
  • 階層型管理(fonds → series → item)が得意
  • 大量資料の整理・長期保存に向く
  • 公共アーカイブでの実績が豊富
  • 研修制度・マニュアルが整いやすい

■ 目的:「記録すること」を重視したアーカイブ


■ Omeka Sが選ばれる理由

  • Dublin Core に標準準拠
  • 柔軟に公開サイトを作れる
  • ミュージアム・展示向けの拡張が豊富
  • 使いやすいUIで職員の習熟が早い
  • 学芸員による展示アーカイブと相性がよい

■ 目的:「公開すること」を重視したアーカイブ


▶ 結論

自治体アーカイブは原則として、

AtoM=保存・階層管理

Omeka S=公開・展示・教育連携

このように役割が明確に分かれます。


AtoMとは?特徴・強み(多階層アーカイブ)

AtoMは、世界中の公文書館・図書館・博物館で採用されている

“記録特化型” のアーカイブシステムです。


■ AtoMの強み①:階層管理(fonds → series → item)

公文書館の資料分類をベースにしており、

  • コレクション単位
  • 年代
  • 収集方法
  • 保管元

こうした多層的な構造を保持できます。

資料数が数百点 → 数千点 → 数万点 と増えても崩れないのが最大の強み。


■ AtoMの強み②:ISAD(G)対応(国際標準)

AtoMは国際標準ISAD(G)に準拠しているため、

  • 異なる自治体とのデータ互換
  • 後年のシステム移行
  • 国際学術プロジェクトへの参加

こうした連携がしやすくなります。


■ AtoMの強み③:大量資料に強い

  • 写真
  • 史料
  • 書簡
  • 口述記録
  • 行政資料

大量のアナログ資料を扱う自治体に向いています。


■ AtoMの弱点

  • UIが難しい
  • カスタマイズが制限される
  • サーバー要件が高い
  • 導入後の“慣れるまでの期間”がやや長い

専門家のサポートが必須 のケースが多い。


Omeka Sとは?特徴・強み(柔軟性・公開向け)

Omeka S は、ミュージアム界隈で評価が高く、

“展示と教育” を重視したシステムです。


■ Omekaの強み①:Dublin Coreベース

国際標準の Dublin Core を基盤にしているため、

学芸員の展示記録と極めて相性が良いです。


■ Omekaの強み②:複数サイトを構築できる

  • 公開用サイト
  • 教育向けサイト
  • 展示特設サイト
  • 研究者向けサイト

これを同じデータベースから生成できます。

“データは1か所、見せ方は複数”

これが自治体で強力な武器になります。


■ Omekaの強み③:専門知識が少なくても運用可能

管理画面がシンプルで、

職員が半年の交代で変わる自治体でも継続しやすい。


■ Omekaの弱点

  • 大量資料にはやや不向き
  • 長期保存には独自設計が必要
  • 権限管理はAtoMほど強くない

公開中心・展示中心の自治体向け


自治体・資料館での成功モデル

AtoMとOmekaは「得意分野」が明確なため、

成功している自治体は ほぼ共通したパターン を取っています。


AtoM活用例(成功モデル)

● 成功例①:歴史資料館が収蔵資料を体系化

  • 膨大な紙資料・写真・口述記録をAtoMに統合
  • Fonds(収集単位)ごとに整理
  • 研究者・学芸員が検索できるように分類

    “迷子資料” がゼロになった

● 成功例②:市役所の公文書館が階層整理

  • 行政文書をAtoMで保存
  • シリーズ(部署単位)で綺麗に分類
  • 異動した職員でも追跡可能

    紙→デジタル→公開の流れが成立

● 成功例③:大規模資料移行プロジェクト

  • 1万点を超える史料データを移行
  • メタデータ設計をAtoMに標準化
  • 旧システムからの変換を自動化

    移行の失敗がゼロで完了

Omeka活用例(成功モデル)

● 成功例①:博物館の展示アーカイブ

  • 展示情報(作品・説明文・写真)をOmekaで公開
  • 来館者がスマホで閲覧
  • 展示終了後も“常設データ”として残る

    展示資産の蓄積が加速

● 成功例②:学校教育と連携

  • 郷土資料をOmekaで公開
  • 小中学生の調べ学習で活用
  • 教育委員会との連携が強化

    教育成果が見える化

● 成功例③:イベント・文化遺産PR

  • 祭り・芸能・文化財の特設サイトをOmekaで作成
  • 観光部署と共同運用

    自治体全体の広報効果が上昇

小規模自治体が導入に成功したポイント

人口規模が小さい自治体ほど、

限られた人材・予算で動くため、

成功の条件がより明確 になります。

成功した自治体は、次のポイントを押さえています。


■ 成功ポイント①:範囲を“最初から絞る”

NG例:

「とりあえず全部デジタル化しよう」

OK例:

  • 写真資料のみ
  • 展示記録のみ
  • 祭りの資料のみ
  • 町史編纂室の資料のみ

範囲を限定することで

計画が破綻しなくなる


■ 成功ポイント②:メタデータの標準化を最初に行う

例:

Dublin Core 10項目+自治体独自5項目

→ これを最初に決めてから データを作る。

これを後回しにすると、

100点→300点→1000点…

増えるほど修正が難しくなる。


■ 成功ポイント③:担当者を固定化し、引き継ぎシートを作る

担当者が1〜2年で異動する自治体が多い。

知識が失われるのを防ぐために、

  • 操作マニュアル
  • メタデータ設計書
  • フォルダ構造ルール
  • 権限リスト

これらを最低限揃えておく。


■ 成功ポイント④:AtoM=保存、Omeka=公開の併用

保存と公開を1システムで行うと負荷が高い。

成功例はほぼ全て、

  • AtoM:バックヤード
  • Omeka:公開サイト

という“二段構え”を採用している。


データ移行を成功させる方法

アーカイブ事業で最もトラブルが起きるのは

“データ移行*です。

過去のシステムやExcelからの移行で失敗すると、

予算・時間が倍増します。


■ 成功する移行の5ステップ

  1. 旧データの棚卸し

     (ファイル形式・重複・欠損の把握)
  2. メタデータのマッピング

     (旧→新の項目を対応させる)
  3. テスト移行(100点程度)

     → UIで正しく表示されるか確認

     → 検索できるか確認
  4. 自動移行(大量データ)

     スクリプトによるまとめ移行
  5. 目視チェック

     タイトル・サイズ・技法など

     最後は人間の判断が必須。

■ 移行でよくある失敗

  • 日付形式のバラバラ
  • タイトルの重複
  • 画像のパスが切れる
  • メタデータの不足
  • Excelのセル内改行による崩れ
  • 旧システムの“独自項目”の扱いが曖昧

これらは

“設計 → テスト → 本番移行”

の流れで確実に防げます。


長期運用に必要な“人材・予算・体制”

システム導入はスタートラインにすぎません。

50年スパンの保全には、

人材・予算・組織体制 が必須です。


■ 人材:最小3名体制が理想

  • 1名:データ入力
  • 1名:システム管理
  • 1名:運営方針・広報

小規模自治体では

「1人で全部」が常態化しているが、

長期運用では破綻する


■ 予算:年間20〜80万円が一般的(人件費別途)

  • サーバー保守
  • セキュリティ更新
  • バージョンアップ
  • データ入力委託

小規模館でも、

年間20〜30万円の維持費は必要。(人件費別途)


■ 体制:年に1回の見直しが必須

  • メタデータの追加
  • 公開範囲の見直し
  • 個人情報のチェック
  • システム更新の確認

担当者の経験差を埋めるためにも

“毎年の棚卸し”が有効。


まとめ:AtoMとOmekaの使い分けで成功率が変わる

■ 結論(自治体アーカイブの成功法則)

  1. AtoM=保存・階層管理のプロ
  2. Omeka=公開・展示のプロ
  3. 小規模自治体ほど“範囲を絞る”
  4. メタデータ設計を最初に固める
  5. 移行テストを必ず行う
  6. 長期運用の体制と予算を確保する

成功している自治体は例外なく

AtoMとOmekaを役割分担させ、長期運用の「仕組み」を作っている

という共通点があります。

小規模自治体向け「段階的導入ロードマップ」

(年間予算50万以下・担当者1〜2名の自治体を想定)

アーカイブ導入は“システムを入れる”ことが目的ではありません。

目的は 資料散逸の防止・後継者への継承・地域の文化価値の可視化 にあります。

そのために、段階的導入が最も失敗率が低くなります。

以下では 3段階(基礎 → 構築 → 拡張) で示します。


【STEP 0|事前整理:自治体の文化資料の“現状把握”】

(期間:1〜2ヶ月)

いきなりデジタル化に着手してはいけません。

多くのプロジェクトがここを飛ばして失敗します。


● 0-1|保有資料の棚卸し

  • 文書資料
  • 写真資料(紙焼き・フィルム)
  • 行政資料
  • 展示記録
  • 民俗資料
  • イベント記録(祭り・行事)
  • 口述記録
  • 郷土史関連資料
  • 学校教育資料

分野別に総点数の概数を出す


● 0-2|資料の“危険度”チェック

次のどれかに当てはまる資料は優先してデジタル化すべき。

  • 変色・劣化している
  • フィルムのカビ
  • 破れ・折れ
  • 収納場所が不明確
  • 1人の担当者にしか把握されていない資料

→ 優先順位をつける(高|中|低)


● 0-3|システム選定の事前方針

資料数・予算から大まかに方向性を決める。

  • 保存中心 → AtoM
  • 公開中心 → Omeka S
  • 両方必要 → AtoM+Omeka

※この時点では決定しなくてOK。

あくまで方向性だけ持っておく。


【STEP 1|基礎整備フェーズ(1年目)】

(最重要。ここで成功すれば後がラク)

目的:

資料を“デジタル化できる状態”に整える


● 1-1|メタデータ項目を決める(最優先)

小規模自治体の失敗原因の80%は

“最初に項目設計をしていないこと”。

推奨:

Dublin Core 10項目+自治体独自5項目

例:

  • タイトル
  • 作成者
  • 作成年
  • 説明
  • 種別(写真/文書/民俗)
  • 所在地
  • 権利
  • 担当部署
  • デジタル化日
  • 管理番号
  • 分類(自治体独自)
  • 地域名(地区名)
  • 祭り名/行事名
  • 寄贈者
  • 備考

→ これを“メタデータ設計書”として作る。


● 1-2|フォルダ構造を決める(クラウド)

Google Drive/OneDrive/NAS のいずれかで統一。

推奨構造:

/Archive  

 ├00_メタデータ設計書  

 ├01_写真資料  

 │ ├年  

 │ └地区  

 ├02_文書資料  

 ├03_展示記録  

 ├04_民俗資料  

 └99_作業保管庫


● 1-3|デジタル化(スキャン・撮影)を“少量だけ”試す

最初から大量にやると破綻するので

100点だけ 実験的にデジタル化する。

  • スキャンルール作成
  • 画像の命名規則決定
  • 色補正のルール決定
  • スタッフの担当分け

→ ここまでで“運用の基礎”が整う。


【STEP 2|アーカイブ構築フェーズ(2年目)】

目的:

AtoMまたはOmeka Sでアーカイブの形を作る


● 2-1|システム選定(AtoM or Omeka)

資料の方向性で選ぶ。

● AtoM
  • 写真・文書・行政資料が中心
  • 階層構造が必要
  • 長期保存優先
● Omeka S
  • 展示・教育・公開優先
  • 来館者向けサイトが欲しい
  • UIの使いやすさ重視

● 2-2|テスト環境の構築

いきなり本番はNG。

必ずテストサーバーで動作確認する。

  • メタデータ入力
  • 画像アップロード
  • 検索の挙動確認
  • 表示崩れのチェック
  • 権限管理テスト

● 2-3|100点のデータを移行して検証

STEP1で作った100点のテストデータを移行する。

  • 文字化けは?
  • 和暦・西暦は統一されているか?
  • タグ・分類は正しく反映されているか?
  • 画像は高画質のままか?

この時点で問題個所を洗い出す。


● 2-4|本番移行(段階的)

一度にすべて移行してはいけません。

小規模自治体の成功例は必ず、

100点 → 300点 → 1000点

と段階的に進めています。


● 2-5|公開サイト(必要な場合)

Omeka Sならここで

  • 公開範囲
  • 個人情報のマスキング
  • 著作権表示
  • 閲覧レベル設定

を決定。


【STEP 3|拡張フェーズ(3年目以降)】

目的:

資料館として“地域全体のデータ基盤”を整える


● 3-1|公開範囲の拡大

  • 展示記録の公開
  • 行事資料の公開
  • 歴史写真の公開
  • 学校との連携公開
  • 観光サイトとの連携

→ Omeka Sの“複数サイト構築”が活きる。


● 3-2|追加データの長期入力作業

  • 外部委託(1点300〜500円)
  • 非常勤職員の配置
  • ボランティアの活用
  • 学芸員の supervision(監修)

自治体の成功例は

“入力担当を固定化”

することでデータの一貫性を守っている。


● 3-3|5年スパンの計画書の作成

自治体アーカイブは

“単年度事業で終わる”と必ず失敗する。

成功自治体の共通点:

  • 5年ごとの改訂
  • 予算枠を固定
  • 担当部署を固定
  • 毎年の棚卸し
  • 学芸員・図書館・教育委員会との横断連携

これが長期保全の核となる。


■ まとめ:段階的導入が最も失敗しない

小規模自治体が成功するアーカイブ導入は、

例外なく次の特徴を持っています。

✓ 最初に“範囲を限定”

✓ メタデータとフォルダ構造を最初に決める

✓ 100点だけテストする

✓ 段階的にデータ移行

✓ 担当を固定し、毎年棚卸し

✓ AtoM=保存/Omeka=公開の役割分担

このロードマップを使えば

「担当者が変わる自治体」でも

「予算が小さい自治体」でも

アーカイブが確実に定着します。

この記事を書いた人
ArtLibの長岡です。 アートイベントの取り仕切りを10年にわたって続けてきました。 現在は百貨店のアートギャラリースペースにて、作家さんの展示会場の運営を行っています。 絵画を年間2000万円の絵画を販売して、学んだことを公開していきます。