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作品撮影のコツ|アーカイブに適した写真とは?

アーカイブ用の写真とは「作品を正しく残し、未来のあなたや第三者が“誤読しない”ための記録写真」であり、その本質は“正確・公平・長期再利用性”にあります。

この“一見あたり前”の原則を理解していないと、

作品撮影はSNS写真の延長として扱われ、

「なんとなく綺麗」「それっぽい」写真になってしまいます。

しかし、アーカイブでは“なんとなく良い写真”は役に立ちません。

求められるのは

① 正確性

② 軸のブレない資料性

③ 20年後にも使える再利用性

の3つです。

これは作家の視点だけでなく、

  • ギャラリー
  • 学芸員
  • 研究者
  • コレクター
  • 美術史家
  • 展示プランナー

の視点をも含む“長期的な利害関係者”の要求に応えるための撮影です。

だからこそ、作品撮影は “アーカイブの中核業務” として扱う必要があります。

「後で撮ればいい」「スマホ適当でいい」は、アーカイブの世界では通用しません。

本稿では、スマホのみでプロレベルのアーカイブ写真を撮るために、

光・構図・歪み・立体撮影・部分撮影・編集に至るまで

徹底的に深堀りして解説します。


アーカイブ用写真の“目的”を理解する

多くの作家がアーカイブ写真をSNS写真と同じ感覚で撮ってしまい、

結果的に以下のような失敗を生みます。

  • 実物と色が違う
  • ゆがんで台形になっている
  • 影が強くて作品の情報が欠けている
  • 背景がごちゃついている
  • 一箇所だけ光が当たりすぎている
  • 写真が暗く、編集しても救えない

これはすべて、アーカイブ写真の“目的”が理解されていないために起きます。


■ アーカイブ写真の最大の目的は“正確な記録”

アーカイブ写真は、作家の感情や世界観を盛り込む場ではありません。

“事実”を淡々と、正確に残すための写真です。

正確とは何か?

  • 実物に近い色
  • 歪みがない
  • 明暗差が少ない
  • サイズ感が把握できる
  • 影で潰れている部分がない
  • 反射が邪魔していない
  • 全体像が均一に見える

アーカイブ写真とは「作品の情報を欠落させず未来に残す」行為です。

それは作家としての 義務 であり、創作行為の延長です。


■ 未来の誰が、この写真を見るのか?

アーカイブ写真は、次のような多種多様な人々が使います。

  • 自分(作家本人)
  • ギャラリスト
  • 学芸員
  • キュレーター
  • アートディレクター
  • コレクター
  • 美術史家
  • 書籍編集者
  • 資料館の研究員
  • 修復家
  • 展示施工担当者
  • 保険会社
  • カタログ制作会社
  • 未来のファン
  • 子や孫の世代

つまり、アーカイブ写真は 「未来の読者」への手紙 です。

その読者に向けて、正確な情報を残さなければなりません。


■ SNS写真との比較:目的の違いが“全て”を決める

項目アーカイブ写真SNS写真
目的記録・証拠・資料魅力・世界観
重視正確性感情・演出
編集最小限加工OK
均一ドラマチックでもOK
構図正対・平行斜め構図もOK
実物に忠実見栄え優先

“アーカイブ写真は地味でいい。むしろ地味でなければならない。”

この原則を理解することが、作品撮影の出発点になります。


光の使い方(自然光が最強)

作品撮影の最重要ポイントは「光」です。

スマホカメラで最も性能差が出るのも光量です。

プロがスタジオで大掛かりな照明を使うのは、

“光の質が作品写真の質をほぼ決めるから”です。

スマホだけでアーカイブ撮影をする場合でも、

光の考え方を理解していればプロレベルに寄せられます。


■ 結論:自然光(曇りの日)が最強の照明

スマホは暗い場所に弱く、人工光は色転びを起こしやすいです。

自然光が最強の理由:

  • 均一で柔らかい
  • 色が正確(太陽光は“基準光”)
  • 影が薄く、質感が自然
  • 暗部ノイズが出にくい
  • スマホセンサーとの相性が良い

ベスト条件ランキング

1位:曇りの日の窓際(最高)

2位:晴れの日のレースカーテン越し

3位:晴れの日の北窓

4位:室内照明+自然光(混色注意)

直射日光はNG(影と色の破壊者)

直射日光は“強すぎる光”であり、

アーカイブ写真に次の問題を生みます。

  • 影が濃すぎる
  • 白飛びが起きる
  • コントラストが極端
  • 色の一部が飛ぶ
  • 反射が作品表面に強く映る
  • 質感が見えなくなる

特に油彩・樹脂・ニス仕上げは反射が強く、

直射日光では“作品の半分が光の反射で消える”こともあります。

窓際の使い方(配置の工夫で光はコントロールできる)

自然光を最大限活かすための基本配置:

[窓] →→(光)→→ [作品] →→ [撮影者(スマホ)]

この配置だと光が斜めから入り、

  • 影が入らない
  • 均一な光になる
  • 撮影者の影が作品に落ちない

という好条件が揃います。

窓際撮影のチェックリスト

  • カーテン(レース)が光を柔らかくする
  • 作品は窓に対して“少しだけ角度をつける”
  • 部屋の照明は必ず切る(混色は厳禁)
  • 影が落ちる位置に立たない
  • 撮影者自身が光を遮らない距離を確保

自然光を制することが、アーカイブ撮影の80%を制します。


背景・影・色を正確に写す方法

作品写真は作品単体では完結しません。

背景の選び方・影のコントロール・色の再現性こそ、資料価値を左右します。


■ 背景は「白・グレー・黒」の三択

背景は作品を正しく見せるための“舞台”です。

白背景(最も推奨)

  • 色再現性が高い
  • 影が見えやすい
  • 作品が最も自然に見える

グレー背景(写真に慣れた人向け)

  • 色評価が正確
  • 影が適度に消える
  • 中性色で作品を邪魔しない

黒背景(立体作品向き)

  • 形状が浮かび上がる
  • 陶器・金属・ガラス作品と相性が良い

避けるべき背景:

  • カラフルな布
  • 木目の強い板
  • 生活感のある壁紙
  • シワの入った布

■ 影を消す=情報を守る

アーカイブでは「影=情報欠損」と考えるべきです。

影は作品の一部を“暗闇で隠す”ため、

後から色補正や編集でどうにもならない情報欠落が発生します。

影を消すための方法:

  • 白紙(レフ板)で光を反射
  • 作品と撮影者の距離を離す
  • 窓の光をカーテンで柔らかくする
  • 撮影者自身の影が入らない位置に立つ

■ 色を正確に写す(アーカイブの義務)

色再現性はアーカイブの根幹です。

特にアートでは色が作品の本質部分を成すからです。

色再現の鉄則

  • 室内照明は消す(暖色が混ざる)
  • 自然光のみを使う
  • スマホの自動補正(HDR)をオフ
  • 露出は“少し明るめ”に設定
  • 編集は最小限(実物に近づけるための補正のみ)

写真が暗いと編集で色が破綻し、

作品の本質が違って見えるという“資料的事故”が起きます。


スマホで歪みを防ぐ撮影テクニック

アーカイブ写真の“技術的失敗率No.1”が歪みです。

スマホのレンズは広角がデフォルトのため、何もしないと必ず歪みます。


正対(完全な平行を作る技術)

正対とは、

作品面とスマホのカメラ面を完全に平行にすることです。

チェックポイント:

  • 作品の四隅が全て写っている
  • 上下左右の余白が均等
  • スマホのグリッド線と作品の縁が平行
  • 影がどこにも入っていない
  • 作品が台形になっていない

正対は“資料写真の絶対条件”です。


■ 歪みを徹底的に減らす方法

  1. 1.5〜2倍ズーム

     スマホ広角を避けるための最重要テク。

     作品が正しく四角形に近づく。
  2. 作品から1〜2mほど離れる

     距離が歪みを減らす最大の要因。
  3. 体をまっすぐ、顔もまっすぐ

     姿勢の歪みが写真の歪みに直結。
  4. グリッド線をオンにする

     プロは必ずグリッドを使う。
  5. 撮影後の補正で微調整

     “台形補正”はアーカイブにおける最後の救済。

立体作品・テキスタイル作品の撮影ポイント

立体や布作品は“作品の物理的情報”が多いため、

平面作品とは異なる撮影方法が必要です。


■ 立体作品(陶芸・彫刻・オブジェ)の撮影

立体作品に必要な情報:

  • 全体の形状
  • 表面の質感
  • 厚み
  • 構造
  • 裏側・底部の情報
  • サイズ感

撮影すべき角度:

  • 正面
  • 左側面
  • 右側面
  • 背面
  • 45°の斜め前
  • 上からの俯瞰
  • 底面(作品情報がある場合は必須)

最低でも 5〜7枚 が義務と言えます。


■ テキスタイル(布・染め・織り・刺繍)の撮影

布作品は“質感と色”が命です。

重要情報:

  • 布目(織り/編み)
  • 染料や色の深層
  • ステッチ部分
  • 厚さや柔らかさ
  • 全体の構造

撮影ポイント:

  • 壁掛けで歪みを防ぐ(床置きはシワや湾曲が出やすい)
  • 自然光で陰影を均等に
  • 布の“目”が分かるアップ
  • 色が変わらないよう照明をオフ
  • 優しく光を当てて質感を出す

布作品は“色の正確性”が特に重要です。


作品アップ・部分撮影の注意点

アップ写真は、作品の“技術情報”を示す非常に重要な資料です。

特に絵画・彫刻・テキスタイルでは必須です。


■ アップ撮影の原則

  • カメラを近づけすぎない
  • ピントが甘くならない距離まで引いて撮る
  • 左上・右上・左下・右下は必ず撮影
  • 特徴的な部分(筆致・凹凸・テクスチャ)を2〜4枚
  • 影が落ちない角度を探す
  • レンズの反射が見えないようにする

アップ写真は、

  • 技法の証拠
  • 作品の状態の記録
  • 修復の参考資料
  • 学術的評価
  • カタログ掲載用

として重要な意味を持ちます。


撮影後に最小限の編集で整える方法

編集は“作品を作り替える行為”になり得るため、

アーカイブでは最小限に留める義務があります。


■ 編集するのは以下の4つだけ

  1. 明るさ

     → 作品が全体的に明るく、影が少ないか。
  2. 角度補正(歪み取り)

     → 台形補正・水平補正。
  3. トリミング

     → 作品周囲に適切な余白を残す。
  4. 色調整

     → 実物に最も近くなる最小限の修正。

避けるべき編集:

  • アートフィルター
  • 彩度アップ
  • コントラスト過多
  • HDR強調
  • ぼかし

編集が強いと「事実としての作品」と「写真の作品」が乖離し、

アーカイブ資料として価値が大きく落ちます。


まとめ:迷ったら“明るく・平行・正対”でOK

最後に、アーカイブ写真で最も大事な原則をまとめます。

アーカイブ撮影の三原則

  1. 明るく(自然光)
  2. 平行(水平・垂直)
  3. 正対(ゆがみゼロ)

この3つを守るだけで、

スマホだけでも“資料館レベル”のアーカイブ写真が実現できます。

作品は「作った瞬間」よりも、「残した瞬間」に価値が生まれます。

あなたの未来の制作、評価、展示機会、研究対象としての価値は、

今日撮る1枚の“正しい写真”から始まります。

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この記事を書いた人
ArtLibの長岡です。 アートイベントの取り仕切りを10年にわたって続けてきました。 現在は百貨店のアートギャラリースペースにて、作家さんの展示会場の運営を行っています。 絵画を年間2000万円の絵画を販売して、学んだことを公開していきます。