絵画やイラストの価格を決める指標として代表的なのは号単位です。号というのはキャンパスの広さを基準にしたものであり、日本ではそれを重視する傾向があります。あくまでも作品のクオリティが同じと仮定した場合ですが、号の数値が大きいほど価格も高くなるのです。たとえば、1号が5万円と設定されている作品なら、4号になると20万円前後の値段が付くでしょう。6号になれば30万というように、ある程度は比例に関係があると考えて差し支えありません。ただし、これは目安に過ぎず、無制限に高くなることはないので注意しましょう。小さくて緻密である点が評価されている作品の場合、大きいと逆に価格が下がることも十分にありえます。
これらを念頭に置く必要はありますが、号単位で決められることが多いのは事実です。ただし、海外では一般的ではない方法なので、外国との取引をメインにしている人は馴染がないかもしれません。また、これまで国内の相手としか取引していない場合も気を付けてください。海外の相手とやり取りする際、号単位を根拠として交渉しても通じないケースが多いからです。よって、基本的には国内の取引に限定される目安と認識しておいたほうが安心です。
サイズや号数とも関連はありますが、あくまでも時間を中心とする決め方も存在します。感覚的には時間給に近いものだと考えても良いでしょう。作り手がどれだけの時間を要したのか算出し、時間あたりの単価を乗じて計算します。たとえば、1時間あたり2000円と見積もっていれば、10時間かけて完成させると2万円になります。若手のうちは時間単価が低く、実績を積むに従って上げるのが一般的です。有名なアーティストの場合、10万円のような破格の時間単価を設定するケースも珍しくありません。この決め方に関して曖昧な印象を持つ人もいるでしょう。これは買い手も感じることなので気を付けなければなりません。
自分が過去に制作した作品と照らし合わせ、そこから時間単価を設定することが大事です。企画や修正といったトータルの期間で求めると良いでしょう。言い換えると、決定している市場価値を目安として、そこから時間を逆算するといった具合です。その際、他の作り手の相場も考慮することが重要になります。単価が安い作り手とクオリティが変わらなければ、そちらに顧客は流れしまうからです。よって、単純な所要時間だけでなく、いろいろな観点から適切に設定することが欠かせません。
どのようなビジネスにもいえることですが、売上が材料費を下回っていると利益は出ません。その点を重視することも価格を決める際に役立ちます。絵画やイラストを制作するにあたり、それに適した画材の購入が必要になるでしょう。一度で使い切るケースは稀ですが、いずれにせよ消費されていることに違いはありません。つまり、経費を使いながら完成に向けて取り組むというわけです。そのため、少なくともその経費よりも高い価格を設定することが条件になります。経費と同額程度だと時間を浪費する結果にしかなりません。そこに利益を上乗せして、収入を増やすことを考えましょう。
どれだけの割合に設定するのか検討しなければなりません。いわゆる利益率を決める必要があり、それを軸として調整していきます。ジャンルによって一般的な利益率が存在するので調査しましょう。たとえば自分のジャンルが10%なら、30%のような割合を設定するのは良くありません。業界の常識を分かっていないと見なされ、顧客が寄り付かないケースもあります。反対に、3%のような低すぎる割合も相手に警戒心を持たせやすいです。クオリティの低さなどを懸念させるため、やはり一般的な利益率の近くに設定しておきましょう。
絵画やイラストは価格帯がとても広い製品です。オークションなどで破格の値段が付くケースも少なくありません。ただし、それらはほんの一握りの作品であり、たいていの製品はもっと狭い範囲に収まっています。市場価格を確認しておくと、価格帯に関するイメージをつかみやすくなるでしょう。工業製品ほどの変動はありませんが、トレンドに影響を受ける点は同様です。流行にマッチした作品は価格が上がり、流行が去ったものは徐々に下がっていきます。したがって、こまめなチェックも重要であり、常に価格の推移を把握しなければなりません。
ただし、すべてがトレンドに左右されるわけではありません。普遍的に好まれるデザインや技法も存在し、その場合は数年にわって相場が維持されるケースもあるのです。よって、これからの推移を見るだけでなく、過去にさかのぼってチェックすることも必要になります。市場価格はインターネットでも調査できますし、個展などに出掛けて同業者と情報交換することも有効です。市場がとても小さいジャンルなら、いろいろな手段を講じないとデータを得にくい場合もあるでしょう。その対策として、同ジャンルの作り手がいるコミュニティに参加するという手もあります。
時間が価格設定の指標になるのは前述のとおりですが、より広い視野を持つとさらに決めやすくなります。絵画やイラストを作ったからといって、すぐに買い手が見つかるわけではありません。有名なアーティストなら取引を持ち掛けられますが、たいていの作り手は営業活動が必要になります。昔は絵画ショップなどを回って交渉したものですが、現代はインターネットを利用する方法が主流です。特にSNSで展開していくケースが増えており、ポートフォリオが載ったサイトを案内する人もいます。
そう聞かされると、成約までの期間は長くないように感じるかもしれません。たしかに手間は減っていますが、一度の宣伝で買い手が見つかることはごく稀です。ほとんどの場合は根気よく宣伝を続けていくことになるでしょう。これらにかかる時間も計算に入れておくことが望ましいです。制作が10時間で宣伝に10時間かかった場合、最初の10時間のみをベースに決めると、後の10時間はただ働きになってしまいます。それではビジネスとして続けていくのは困難です。前と後の時間単価に差を付けて考えると、的確な価格を定めやすくなります。製作は2000円で宣伝は500円といった具合です。”