ギャラリーが作家を選ぶ基準:Artlib視点で見た「展示が決まる作家」の特徴
先日、ある若手作家さんの個展準備を手伝っていたときのことです。搬入前日になって「DM、まだ発注していません」と聞かされ、正直かなり焦りました。会場も決まり、作品も揃っている。あとはDMを送るだけ、という段階での話です。結局その回は近所の印刷屋さんに無理を言って部数を絞って刷ってもらいましたが、来場者数はいつもの個展より明らかに少なくなりました。DMは「作品ができてから片手間に作るもの」ではなく、個展の成否を左右する広報物だと、この経験で改めて痛感しました。
今日は、私がこれまで数えきれないほどのDM・フライヤー制作に立ち会ってきた中で見えてきた、必須の情報要素からサイズ選び、印刷発注のコツまでを実務目線でまとめます。
DMのデザインに凝る前に、まず抜けがちな情報を確認しておきたいと思います。私が現場でチェックしているのは次の7つです。①作家名(読み仮名含む)②展覧会タイトル③会期(開始日・終了日・曜日)④開廊時間(最終日短縮などがあれば明記)⑤会場名と住所⑥最寄駅からのアクセス⑦主催者の連絡先やSNSアカウントです。
特に見落とされやすいのが「最終日の短縮時間」と「休廊日」です。会期中に一日だけ休みが入るギャラリーは意外と多く、これが抜けていると来場者が空振りしてしまいます。私は過去に、会期の年号を書き忘れたDMを見たことがあります。年をまたぐ時期の展示では、思わぬ落とし穴になるので気をつけてください。
サイズは「はがき(100×148mm)」「A5」「二つ折り(観音開き含む)」の3パターンで検討することが多いです。はがきサイズは郵送コストが最も安く、初個展や小規模な展示に向いています。作品点数が多く、会場マップや作家プロフィールまで載せたい場合はA5、さらに情報量が多い企画展やグループ展では二つ折りを選ぶ、という使い分けを私はしています。
用紙の厚みも印象を左右します。薄すぎるとチープに見え、厚すぎると郵送費がかさみます。目安としては、はがきなら180kg前後のマットコート紙が扱いやすく、写真作品を紹介する場合は光沢感のある用紙のほうが色の再現性は良くなります。悩んだときは、過去に良いと感じた他の作家のDMを一枚手に取って、厚みを指で確かめてみることをおすすめします。
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ギャラリーのDMコーナーには、常に何十枚ものDMが並んでいます。そこで一瞬でも目を止めてもらうために私が意識しているのは、「余白の設計」です。情報を詰め込みすぎたDMは、結局どこも読まれません。むしろ主役となる作品画像を大きく配置し、文字情報は必要最小限に絞ったほうが、記憶に残るDMになる傾向があります。
もう一つ大切にしているのは、フォントを増やしすぎないことです。基本は1〜2書体に絞り、強弱は太さやサイズで作る。作家の個性を出したい気持ちはよくわかりますが、個性は作品そのもので伝わります。DMはあくまで「会場に足を運んでもらうための入口」だと割り切ると、迷いが減ります。
デザイナーに依頼する予算がない場合、Canvaでの自作は十分に現実的な選択肢です。手順としては、①はがきサイズのテンプレートを選ぶ②作品画像を配置し、周囲に十分な余白を残す③タイトル・会期・会場情報をテキストボックスで追加④配色を作品の雰囲気に合わせて2〜3色に絞る⑤印刷用にPDF(塗り足し3mm)で書き出す、という流れです。
Illustratorに慣れている方は、印刷所ごとの入稿テンプレートを使うと事故が少なくなります。私がこれまで見てきた失敗で多いのは、塗り足しの設定漏れと、画像の解像度不足(Web用の72dpi画像をそのまま使ってしまう)です。印刷用は最低300dpiを確保してください。
部数は「送付先リスト+会場設置分+予備」で考えます。目安として、個人的なつながりでの個展であれば100〜200枚、SNSでの告知も併用するなら150〜300枚程度が扱いやすい範囲だと感じています。刷りすぎて余らせている作家さんを何人も見てきましたが、余ったDMは次回の展示案内に同封するなど再利用の工夫もできるので、極端に恐れる必要はありません。
発注先は、ネット印刷(ラクスル・グラフィックなど)と、地元の印刷所とで一長一短です。ネット印刷は価格が明確でコストを抑えやすい一方、色味の細かい調整はしにくい傾向があります。地元の印刷所は割高になりがちですが、色校正の相談に乗ってもらえる安心感があります。初めての方には、まず少部数をネット印刷で試し、仕上がりを見てから本発注する進め方をおすすめしています。
納期にも注意が必要です。データ入稿から発送まで最短でも3〜4営業日、色校正を挟むなら1週間前後は見ておくと安全です。私は経験上、会期の3週間前にはデータを完成させ、遅くとも2週間前には発送を終える逆算スケジュールを組むようにしています。搬入直前のバタバタの中でDM発注まで抱えると、結局どこかで質が落ちてしまうからです。
DMは、見る人にとって展示との最初の接点です。私は毎回、自分が受け取る側だったらこのDMで足を運びたいと思うか、を最後に自問するようにしています。完璧なデザインでなくても構いません。会期や場所といった基本情報が正確で、作品への敬意が伝わるDMであれば、それはきっと誰かの足を止めるはずです。次の個展のDM、どんな一枚にしますか。
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